自治体が「課題を出す側」に回り始めている
循環経済への移行は、2024年8月2日に閣議決定された第五次循環型社会形成推進基本計画において国家戦略として位置づけられました。5つの方向性のうちの一つが「多種多様な地域の循環システムの構築と地方創生の実現」であり、地域=自治体が循環の担い手として明示されています[1]。
ただし、循環システムを自治体が単独で構築するのは容易ではありません。技術・運営ノウハウ・システムは外部にあることが多く、庁内の人員だけで完結させるのは現実的ではないためです。
そこで近年見られるのが、自治体が地域課題と実証フィールドを提示し、外部の事業者から提案を募る公募型プログラムです。補助金を配る従来型の支援ではなく、「一緒に実証する相手を探す」という設計になっている点が特徴です。ここでは公表されている2つのプログラムを取り上げます。
静岡県:県内全域を実証フィールドにする「CO-LAB Shizuoka」
静岡県は、実証実験サポート事業「CO-LAB Shizuoka」を実施しています。県の公式サイトによれば、目的は「地域とスタートアップが連携して地域の課題解決を目指す取組」の支援です[2]。
仕組み: 「地域パートナー」が課題とフィールドを出す
特徴的なのは、県が単独で課題を設定するのではなく、地域パートナーを置いている点です。市町、商工会議所・商工会、金融機関、支援機関、事業会社などが参加し、「ネットワークへの接続、実証フィールドの提供、地域課題の提供」を担います[2]。
スタートアップ側から見ると、応募先は県でありながら、実際に組む相手は地域の事業者や市町ということになります。実証後の展開まで見据えた設計と言えます。
支援内容と公募の枠組み
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支援内容 | 実証フィールドの提供、アドバイス、ネットワーク接続、PR支援 |
| 経費補助 | あり(補助率・上限額は年度の交付要綱で規定) |
| 対象者 | 法人設立から15年未満、または当該サービス開発着手が10年以内の中小企業 |
| 募集・審査・採択・実施のスケジュール | 年度ごとに公募要領で公表(下記の出典を参照) |
詳細な補助率・上限額・スケジュールは、年度ごとに静岡県公式サイトで公表される公募要領で確認できます[2]。応募テーマには脱炭素・ESGを含む複数の分野が設定されています。
蒲郡市:サーキュラーシティを宣言し、公募で実装を進める
愛知県蒲郡市は、令和3年11月に「サーキュラーシティ」を表明しました。市の公式サイトによれば、ビジョンは「つながる 交わる 広がる サーキュラーシティ蒲郡」で、蒲郡に関わるすべての人々がウェルビーイングを実感し、このまちを誇りに思う状態を目指すとされています[3]。
同市は、これに先立つ令和3年3月に「ゼロカーボンシティ」を宣言しており、そのうえでサーキュラーエコノミーをまちづくりに組み込むために表明に至った、と説明されています[3]。表明の背景としては、地球環境危機への認識の高まりとSDGsの広がり、気候変動に伴う自然災害の頻発化・激甚化、エネルギー価格高騰など市民生活に直結する課題、パリ協定に基づく2050年脱炭素社会実現への国際的動向が挙げられています[3]。
アクションプランは7分野を横断する
市のアクションプランは、教育・消費・健康・食・観光・交通・ものづくりの7分野で構成され、それぞれを「経済」「社会」「環境」の3軸で整理し、相乗効果を生む一体的な展開を目指すとされています[4]。
廃棄物処理やリサイクルという狭い領域ではなく、教育や健康まで含めて循環を捉えている点が特徴です。
実装の入口としての「サーキュラーシティイノベーションプログラム」
蒲郡市は、サーキュラーシティの取組を加速し、イノベーションを創出しつつ早期の社会実装を目指すとして、サーキュラーエコノミー関連事業に取り組む個人・企業を対象としたプログラムを公募しています[5]。
| コース | 対象 | 支援内容 |
|---|---|---|
| 事業基盤構築コース | 創業前後や事業転換を検討している者 | インキュベーションプログラム、フィールドワーク、有識者メンタリングなど(採択予定数・支援上限額は年度の募集要項で規定) |
| 事業拡大コース | 既に事業に取り組み、早期実装を目指す事業者 | 実証計画策定支援、個別メンタリングなど(採択予定数・支援上限額は年度の募集要項で規定) |
募集期間や採択予定数などの詳細は、年度ごとに市が公表する募集要項で確認できます[5]。
各コースの支援上限額は年度の募集要項で規定されますが、金額の大小以上に、インキュベーションプログラム、フィールドワーク、有識者メンタリング、実証計画策定支援といった伴走の中身が明記されている点が特徴です。
資金供給よりも、地域の中で実証を回せる関係をつくることに主眼が置かれた設計と考えられます。
2つのプログラムに共通する設計
自治体が「課題」と「場所」を出す
いずれも、資金を配ることより、実証フィールドと地域内のつながりを提供することを支援の中心に据えています。事業者にとっては、実証の場が確保されていること自体が価値になります。
期間が明確に区切られている
静岡県・蒲郡市いずれも、交付決定から実施期限までの期間や実施回数があらかじめ定められています(詳細は年度の募集要項による)。期限が明確であることで、検証と次の判断が回りやすくなると考えられます。
庁内単独ではなく、地域の関係者を巻き込む
静岡県は市町・商工会議所・金融機関等を地域パートナーとして位置づけ、蒲郡市は7分野を横断する構成をとっています。循環は一部局・一事業者では完結しないという前提が、設計に反映されています。
なぜ循環経済は、この形式と相性がよいのか
循環経済の取組は、対象が「モノの流れ」であるため、次の3つの性質を持ちます。
- 現場ごとに条件が違う — 品目・量・輸送距離・関係者が地域によって異なるため、汎用的な仕組みをそのまま導入しにくい。
- 複数の主体が関わる — 排出する側、受け取る側、運ぶ側、処理する側が別々の組織であることが多い。
- 実際に回してみないと分からない — 机上の設計では、どこで止まるかが見えにくい。
これらは、実証フィールドを提供して小さく回してみる形式と噛み合います。逆に言えば、詳細な仕様を先に固めて調達する従来型の発注では、この種の取組は進めにくいと考えられます。
これから設計する自治体が押さえておきたい論点
論点1: 課題は具体的に切り出せているか
「サーキュラーエコノミーを推進したい」では提案が集まらないどの施設の、どの品目の、どの工程で困っているのかまで具体化されているほど、提案の質が上がります。庁内のどの課がどんな困りごとを抱えているかの棚卸しが前提になります。
論点2: 実証後の出口をどう考えるか
実証で終わらせないための設計実証が成功した場合に、翌年度以降どのように本格導入へ移行するのか(予算措置、調達手続、庁内の所管)をあらかじめ整理しておくと、事業者側も本気度の高い提案を出しやすくなります。
論点3: 庁内の現状把握が土台になる
課題を出すには、自庁の状況が見えている必要がある総務省の資料(令和6年6月)によれば、固定資産台帳について現物と照合できない団体が300団体(16.8%)あり、記載単位が取替・更新単位まで整備されているのは981団体(54.9%)にとどまります[6]。自庁の資産の状況が把握できていなければ、外部に出す課題の輪郭も描きにくくなります。
まとめ
- 第五次循環型社会形成推進基本計画(2024年8月2日閣議決定)は、地域の循環システム構築を柱の一つに掲げている[1]。
- 静岡県「CO-LAB Shizuoka」は、市町・商工会議所・金融機関等を地域パートナーとし、実証フィールドの提供に加えて経費補助を行う(補助率・上限額は年度の交付要綱による)[2]。
- 蒲郡市は令和3年3月にゼロカーボンシティを宣言し、令和3年11月にサーキュラーシティを表明。教育・消費・健康・食・観光・交通・ものづくりの7分野でアクションプランを構成している[3][4]。
- 同市のイノベーションプログラムは、事業基盤構築コース・事業拡大コースの2コース制で、採択予定数や支援上限額よりも伴走支援の中身に重きを置く設計になっている(詳細は年度の募集要項による)[5]。
- 循環経済は現場ごとに条件が異なり複数主体が関わるため、実証型の枠組みと相性がよい。課題を具体的に切り出すには、まず自庁の資産・物品の現状把握が前提となる[6]。
なお、本記事で紹介したプログラムの募集要件・スケジュールは年度によって変わります。検討にあたっては、各自治体の公式サイトで最新の情報をご確認ください。