全国1,215団体、68.0% — 表明はもはや「先進的な取組」ではない
2050年二酸化炭素排出実質ゼロを表明した地方公共団体、いわゆるゼロカーボンシティは、令和8年5月31日時点で1,215団体に達しました。全1,788団体に対する割合は68.0%です[1]。
3団体に2団体が表明している状況では、表明したこと自体が他自治体との差別化になる段階は過ぎています。むしろ、住民や議会、地域の事業者から問われるのは「表明した後、何をどこまで進めたのか」のほうです。
2050年実質ゼロの表明は、自治体自身の意思表明であり、環境省がその状況を集計・公表しています。これは地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)第21条に基づく地方公共団体実行計画の策定とは別のものです[1][2]。表明していなくても実行計画の策定義務は生じますし、表明したからといって計画が自動的に整うわけでもありません。
表明と計画の間にある、埋まっていないギャップ
環境省が公表している同じ調査から、3つの数字を並べてみます(母数はいずれも1,788団体)。
1,215団体
(令和8年5月31日時点)
1,714団体
(令和7年10月1日時点)
1,117団体
(令和7年10月1日時点)
ここから読み取れることは3点あります[1]。
事務事業編は、ほぼ全団体が持っている
95.9%という水準は、すべての都道府県・市町村に策定義務があることの反映です[2]。逆に言えば、事務事業編を持っていること自体は「取り組んでいる証拠」にはなりません。
区域施策編は、まだ4割近くが未策定
62.5%ということは、約670団体が区域全体の削減施策の計画を持っていない状態です。区域施策編は都道府県・指定都市等に義務、その他の市町村は努力義務であるため制度上は問題になりませんが、区域の排出を実際に減らす施策は、この計画がなければ体系化されにくいと考えられます。
表明と区域施策編の水準がほぼ同じ
68.0%と62.5%という近い数字は、「表明した団体の多くが区域の計画も持っている」とも、「表明はしたが区域の計画はこれから、という団体が一定数ある」とも読めます。公表データからはどちらとまでは特定できませんが、少なくとも表明が計画策定を自動的に伴っていないことは確かです。
2035年度60%という中間目標が、時間軸を変えた
2050年という目標年次は、担当者の在任期間よりはるかに先にあります。しかし2025年2月18日に閣議決定された地球温暖化対策計画と次期NDCによって、2035年度に2013年度比60%削減、2040年度に同73%削減という中間地点が数値で固定されました[3]。
2035年度は、本記事執筆時点(2026年8月)から見て9年後です。多くの自治体の実行計画は5年程度で見直されるため、次の改定と、その次の改定で結果を出さなければ間に合わないという時間軸になります。「2050年に向けて長期的に」という語り方が使いにくくなったのが、この目標設定の実務的な意味です。
国のNDCは日本全体の目標であり、そのまま個々の自治体に割り当てられるものではありません。自治体の目標設定は、地球温暖化対策計画を勘案しつつ、区域の実情に応じて行われます。国の目標が引き上がったことが、計画改定時の検討材料になる、という関係です。
実行フェーズで差がつく3つの論点
論点1: 自分たちの排出量を、どこまで実測できているか
事務事業編の対象は、環境省のマニュアル(令和6年4月・簡易版)によれば地方自治法に定められたすべての行政事務であり、庁舎のエネルギー消費だけでなく、廃棄物処理事業、上下水道事業、公営の公共交通機関、公立学校・公立病院の運営までが含まれます。外部委託や指定管理者制度による事業も対象で、受託者等に排出削減の取組を要請することが明記されています[4]。
指定管理施設や公営企業を多く抱える自治体ほど、この範囲を実際にカバーできているかどうかで、計画の実効性に差が出ます。
論点2: 区域の施策に、実行主体があるか
区域施策編は住民・事業者の行動を変える計画ですが、自治体が直接コントロールできる範囲は限られます。地域の事業者・金融機関・大学などと組む枠組みを持っているかどうかが、計画の紙面と実際の削減量の差になります。
論点3: 財源メニューの変化に追随できているか
環境省の地域脱炭素推進交付金において、看板メニューであった脱炭素先行地域は、2026年2月13日公表の第7回選定で累計102件・45道府県となり、目標達成により募集が終了しました[5]。これから動き出す自治体は、この入口を使えません。
一方、重点対策加速化事業の採択は令和8年5月1日時点で38府県103市29町の計170自治体であり[6]、1,788団体から見ればまだ1割程度です。財源メニューの構成が変わったことを踏まえて、自庁の計画をどう組み直すかが問われます。
「表明だけ」と見られないために、何を示せるか
対外的な説明で説得力を持つのは、宣言文ではなく、実際に動いた事実です。とりわけ、自治体自身の事務事業に関する取組は、住民に対して「まず自分たちから」と説明できる材料になります。
その一方で、庁内の取組は成果が地味で、数値化しにくいという難点があります。ここで安易に大きな削減効果を主張すると、根拠を問われたときに説明できず、かえって信頼を損ないます。効果を語る際は、対象範囲・算定の前提・時点を明示することが前提になります。
庁内の備品・什器の再利用は、環境省のマニュアル上、事務事業編において「グリーン購入・環境配慮契約等の推進」という基盤的取組に位置づけられており、温室効果ガス排出算定の直接の対象ではなく、定性的な措置として扱われています[4]。
したがって、備品の再利用を「実行計画の削減目標に直接効く施策」として説明するのは正確ではありません。廃棄量の削減、調達コストの抑制、資産の有効活用という文脈で説明するほうが、根拠と整合します。
一番小さく、一番早く始められる領域はどこか
再エネ導入や施設の省エネ改修は効果が大きい一方、予算規模も庁内調整の負荷も大きく、着手までに年単位の時間がかかります。表明から実行への移行を早めたい場合、もう少し軽い入口が必要です。
その候補の一つが、庁内にある物品の把握と再利用です。総務省の資料(令和6年6月)によれば、固定資産台帳について現物と照合可能な団体は1,381団体(77.2%)、照合できない団体が300団体(16.8%)とされています。記載単位が取替・更新単位まで整備されているのは981団体(54.9%)にとどまります[7]。
台帳と現物が突き合わせられない状態では、使われていない備品があってもそれを発見する手立てがありません。逆に言えば、現物の把握を進めること自体が、廃棄削減と調達抑制の両方につながる下地になると考えられます。
まとめ
- ゼロカーボンシティ表明は1,215団体・68.0%(令和8年5月31日時点)に達し、表明自体は差別化要素ではなくなった[1]。
- 事務事業編の策定率は95.9%だが全団体に義務があるため水準が高いだけであり、区域施策編は62.5%にとどまる[1][2]。
- 2035年度60%・2040年度73%(2013年度比)という中間目標が2025年2月18日に閣議決定され、時間軸が9年後に前倒しされた[3]。
- 脱炭素先行地域は102件で募集終了。財源メニューの構成が変わったことへの追随が必要[5][6]。
- 庁内の物品把握は着手のハードルが低い領域だが、効果は排出量削減ではなく廃棄削減・調達抑制・資産の有効活用として説明するのが正確[4][7]。