事務事業編が対象とする範囲を、正確に読む
地方公共団体実行計画(事務事業編)は、温対法第21条に基づき、すべての都道府県・市町村に策定義務があります[1]。では、その計画は何を対象にしているのでしょうか。
環境省「地方公共団体実行計画(事務事業編)策定・実施マニュアル(簡易版)」(令和6年4月)によれば、対象は地方自治法に定められたすべての行政事務とされ、具体的には次が挙げられています[2]。
- 庁舎等のエネルギー消費
- 廃棄物処理事業
- 上下水道事業
- 公営の公共交通機関
- 公立学校・公立病院の運営
さらに、外部委託や指定管理者制度による事業も対象で、受託者等に対して温室効果ガス排出削減の取組を講ずるよう要請することが明記されています。算定対象となる温室効果ガスは、CO2、CH4、N2O、HFC、PFC、SF6の6種類で、算定は「活動量×排出係数」により行われます[2]。
ここで押さえておきたいのは、活動量の中心が電気・ガス・灯油などのエネルギー使用量だという点です。事務事業編の削減計画は、実務上、エネルギーの使い方をどう変えるかという計画になります。
では、庁内の備品・什器はどこに位置づけられているのか
同じマニュアルは、物品の調達・廃棄について「グリーン購入・環境配慮契約等の推進」を基盤的取組として位置づけ、用紙節減・ごみ減量・リサイクルなどの率先的取組を列挙しています。ただしこれらは温室効果ガス排出算定の直接の対象ではなく、定性的な措置として扱われています[2]。
「庁内の備品を再利用すれば、実行計画の削減目標に直接カウントできる」という説明は、制度上正確ではありません。事務事業編の算定はエネルギー使用等に基づいており、物品の再利用による製造・輸送段階の排出削減は、そのままでは算定式に入りません。
削減効果を対外的に説明する場合は、何を対象に、どの排出係数で、どの前提で計算したのかを必ず明示してください。前提を伏せた削減量の主張は、根拠を問われたときに説明できず、信頼を損なう原因になります。
この位置づけこそが、庁内の「モノ」が長らく手つかずになってきた理由でもあります。計画の数値目標に直接効かない領域は、担当課の優先順位が上がりにくいためです。
算定対象でないのに、なぜ手をつける価値があるのか
実行計画の数値には直接効かない。それでも庁内の物品の循環に取り組む理由は、別の3つの文脈にあります。
自治体自身が、廃棄物処理の主体である
環境省「一般廃棄物処理事業実態調査」(令和6年度)によれば、全国のごみ処理事業経費は24,489億円、国民1人当たり19,700円/年です。リサイクル率は19.3%、最終処分場の残余年数は24.9年とされています[3]。
企業にとっての廃棄は外部コストですが、自治体にとっては処理そのものが自らの事業です。庁内から出る廃棄物を減らすことは、自らの事業コストと処理能力の問題に直結します。
グリーン購入法上の努力義務と、ガイドラインの更新がある
「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」(グリーン購入法、平成12年法律第100号)において、地方公共団体は第10条により、毎年度の調達方針の作成とそれに基づく調達推進が努力義務とされています[4]。
さらに環境省は2026年7月31日、「地方公共団体のためのグリーン購入取組ガイドライン」を改定し、あわせて「地方公共団体のための環境配慮契約取組ガイドライン」を策定しました。方針の策定段階・調達契約の実施段階・実績の集計段階に分け、想定される課題と対応方法を整理した実務者向けの内容です[5]。
「買うときに環境に配慮する」ことが求められている以上、「そもそも買わずに庁内にあるものを使う」という選択肢は、その延長線上にあると考えられます。
公共施設マネジメントの方針が「賢く使う」に寄っている
総務省は公共施設等総合管理計画の指針において、「新しく造ること」から「賢く使うこと」への重点化を基本方針として示しています[6]。この考え方は建物に限った話ではなく、その中身である什器・備品にも同じ論理が適用できます。
なぜ庁内でモノが回らないのか — 構造的な理由
「使える備品が余っているのに、別の課が同じものを新規購入している」という状況は、多くの組織で観察されます。ここでは全国的な統計データが存在しないため、数値ではなく構造として整理します。
予算と資産が部局ごとに閉じている
備品は取得した部局の管理下に置かれ、購入予算も部局ごとに配分されます。ある課が持て余している資産を別の課が使いたくても、その存在を知る経路がなく、また移管の手続きが定型化されていないことがあります。
「余っている」情報が発信されない
不要になった備品について、それを積極的に公開するインセンティブは通常ありません。むしろ、余っていると認識されると次年度の予算に影響しかねない、という力学が働く場合もあります。
台帳と現物が一致していない
総務省の資料(令和6年6月)によれば、固定資産台帳について現物と照合可能な団体は1,381団体(77.2%)、照合できない団体が300団体(16.8%)とされています。記載単位が取替・更新単位まで整備されているのは981団体(54.9%)、施設等単位が348団体(19.5%)です。課題として、記載単位の未統一、公共施設マネジメント活用に必要な情報(使用耐用年数等)の不足、更新の負担が挙げられています[7]。
台帳と現物が突き合わせられない状態では、「どこに、何が、いくつ、どんな状態であるか」は組織として把握できていません。この状態では、余っている資産を発見すること自体が困難です。
廃棄の判断が現場で完結してしまう
移転・統廃合・組織改編のタイミングでは、短期間で大量の物品を処分する必要が生じます。時間的な制約の中では、他部局に照会するより処分業者に引き取ってもらうほうが早い、という判断になりがちです。
着手の順序 — 小さく始めるための4ステップ
STEP 1: 範囲を絞って現物を把握する
対象を限定することが成功条件全庁一斉ではなく、まず1施設・1部局に絞ります。統廃合や移転が予定されている施設があれば、そこが最も適した出発点です。写真と設置場所を伴う一覧を作ることが目的で、会計上の台帳と完全に一致させる必要はこの段階ではありません。
STEP 2: 「余っているもの」を可視化する
状態と数量が分かる形にする使用中/未使用/更新予定の区分を付け、他部局から検索できる形にします。ここで重要なのは、写真と状態が分かることです。文字情報だけの一覧では、受け取る側が使えるかどうかを判断できません。
STEP 3: 庁内で移管するルールを定める
手続きの不在が最大の障壁になる部局間の移管について、誰が承認し、財産の帳簿上どう処理するのかをあらかじめ決めておきます。ルールがないまま個別調整に委ねると、担当者の負荷が大きく、続きません。
STEP 4: 実績を記録し、次の判断材料にする
検証できる形で残す「何点が庁内で再利用され、何点が処分されたか」を記録します。この実績が、範囲を広げるかどうかの判断材料になり、対外的な説明の根拠にもなります。
効果をどう説明するか — 誇張しない語り方
庁内の物品循環の効果は、次の3つに分けて説明するのが正確です。
| 効果の種類 | 説明のしかた | 注意点 |
|---|---|---|
| 調達費の抑制 | 新規購入を回避した点数×想定単価 | 「本当に買う予定だったか」の前提が必要 |
| 廃棄費の抑制 | 処分を回避した点数×処分単価 | 処分単価は品目・地域で大きく異なる |
| 環境面の効果 | 廃棄量の削減(重量ベース) | CO2換算する場合は算定前提の明示が必須。事務事業編の算定対象ではない |
当社が企業向けに導入している遊休マーケットでは、1アイテムを再利用した場合の効果を調達回避 約18,000円+廃棄回避 約3,500円=約21,500円、CO2削減 約19kgとして試算しています。これは当社による試算値であり、オフィス什器を中心とした民間企業の品目構成を前提としたものです。
自治体の場合、対象となる物品の種類・単価・処分方法が異なるため、この数値をそのまま当てはめることはできません。実際の効果は、対象施設の品目構成に基づいて個別に算定する必要があります。
まとめ
- 事務事業編の対象は地方自治法上のすべての行政事務だが、算定の中心はエネルギー使用量である[2]。
- 物品の調達・廃棄は「グリーン購入・環境配慮契約等の推進」という基盤的取組に位置づけられ、排出算定の直接対象ではなく定性的な措置として扱われている[2]。
- それでも取り組む理由は、①自治体自身が廃棄物処理の主体であること(ごみ処理事業経費 年間2兆4,489億円)、②グリーン購入法の努力義務とガイドライン更新(2026年7月31日)、③公共施設マネジメントの「賢く使う」方針、の3点にある[3][4][5][6]。
- 庁内でモノが回らない主因は、部局ごとに閉じた予算・資産、情報の非公開、台帳と現物の乖離(照合できない団体16.8%)、現場完結の廃棄判断という構造にある[7]。
- 効果は調達費・廃棄費・廃棄量に分けて説明し、CO2換算する場合は算定前提を必ず明示する。